CODEX 7. 製品と商品の違いがわからないなら、事業家ではありません
不眠症を解消する機能性食品を開発した研究者だと想像してみてください。新物質AとBの組み合わせ、99%の体内吸収率、最先端のコーティング技術といった優れた成分をどれだけ説明しても、顧客の反応はいまひとつです。なぜでしょうか。不眠症に悩む顧客は、成分の化学式には関心がありません。彼らが本当に知りたいのは「これを飲めば、本当にぐっすり眠って、すがすがしい朝を迎えられるのか?」ということです。
顧客は製品を買うのではなく、その製品が提供する価値、つまり「商品」を買います。機能性食品の成分(製品)を買うのではなく、「快適な朝」という価値(商品)を買うのです。この違いを理解できなければ、最高の製品をつくっても、たった一人も救えない研究者のままで終わってしまいます。
製品の「機能的価値」と商品の「事業的価値」
成功する創業者は、この2つの価値を明確に区別して設計します。
機能的価値
製品そのものが持つ性能、技術、仕様のことです。「何ができるのか」に対する答えです。「このアプリはAI技術で100件の予定を自動で整理してくれる」といったものです。技術的な優位性を示すことはできますが、これだけで顧客を説得するのは困難です。
事業的価値
製品が顧客にもたらす実質的なベネフィットと購入理由のことです。「なぜ買うべきなのか」に対する答えです。「毎朝、整った一日を始めるゆとりをお届けします」といったものです。これが顧客の感情を動かし、財布を開かせます。
スタートアップは限られたリソースで戦わなければならないため、機能的価値ばかりにとらわれていてはいけません。特定の顧客に「これは自分のためのものだ!」と感じさせる明確な事業的価値を提案してこそ、生き残ることができます。
価値設計の羅針盤:ゴールデンサークル

では、どうすれば事業的価値を設計できるのでしょうか。サイモン・シネック(Simon Sinek)の「ゴールデンサークル」理論は、顧客に何を、どのように伝えるべきかについての強力な羅針盤を与えてくれます。
この理論は3つの円で構成されています。WHY(なぜ)は、私たちはなぜこの仕事をするのか、顧客の人生をどう変えたいのかです。HOW(どのように)は、その機能をどのように差別化して実現したのかです。WHAT(何を)は、自社製品の機能は何かです。
ほとんどのスタートアップは、WHAT(機能)から説明するという過ちを犯します。しかし顧客の心を動かし、財布を開かせるのは、私たちの信念と存在理由、つまり「WHY」です。私たちは「WHAT」をつくるのではなく、「WHY」という価値を売らなければなりません。
Calmはいかにして「瞑想ファイル」ではなく「心の平穏」を売ったのか
今日、睡眠・瞑想アプリ市場のユニコーンとなったCalmの始まりを見てみましょう。初期の瞑想アプリ市場には、数多くの競合がいました。その大半は機能的価値(WHAT)に注力していました。
「1,000本の瞑想トラックを揃えています」「著名な瞑想家の声で収録しました」といったものでした。
これは良い「製品」でしたが、顧客がお金を払ってまで使うべき理由には欠けていました。しかしCalmは違うアプローチをとりました。顧客の最も深い痛み、つまり「不安とストレスで眠れない現代人の夜」に焦点を当てたのです。
Calmが顧客に提案した事業的価値(WHY)は、瞑想ファイルそのものではありませんでした。「眠れないあなたに、穏やかな夜とすがすがしい朝をお届けします」というコアバリューを打ち出しました。そのために、大人のための「ベッドタイムストーリー」という独創的な機能(HOW)をつくりました。
顧客がお金を払ったのは瞑想のオーディオファイル(製品)ではなく、「今日一日のストレスを忘れて、穏やかに眠れるという心理的な安心感(商品)」でした。この明確な価値設計のおかげで、Calmは数多くの競合を抑え、市場で圧倒的な1位になることができました。
機能ではなく「事業価値」を設計する
ステップ1. 自社製品が「なぜ(WHY)」存在すべきなのかを定義します
すべての機能リストを消して、最も本質的な問いから始める必要があります。「私たちは顧客のどんな課題を解決して、彼らの人生をどうより良くしたいのか?」。この問いに対する答えが事業的価値、つまり「WHY」になります。
ステップ2. その価値を「どのように(HOW)」届けるかを設計します
定義した「WHY」を実現するための具体的な方法と原則を定めます。Calmの「ベッドタイムストーリー」のように、自社の価値を最も効果的に届けられる独創的なアプローチは何かを考える必要があります。
ステップ3. そのうえで「何を(WHAT)」つくるかを決めます
最後に、その価値を形にする具体的な機能やサービスを決めます。この段階で決まった機能は、もはや単なる技術の羅列ではありません。一つひとつの機能が「なぜ自社製品が存在すべきなのか」という問いに答える、明確な理由を持った「価値の証拠」になります。
機能は技術者の誇りかもしれません。しかし顧客が買うのは誇りではなく、自分の課題を解決してくれる「理由」です。機能を語った瞬間にそれは製品になりますが、顧客が求める価値を設計した瞬間に、はじめて「商品」になるのです。
[brunch作家 jaha Kim氏の同意のもと、[Startup Codex 22]のコンテンツを活用して制作しました。
jaha Kim氏のほかのコンテンツが気になる方は、下のリンクからご覧いただけます。
© 2026 GritBD. 本サイトのすべてのコンテンツは著作権法により保護されています。All rights reserved



