CODEX 3. 顧客は自分の本当の病名を知らない
スタートアップを始めるとき、私たちはたいてい「何をつくるか」に没頭します。しかし、最も重要な問いは別にあります。それは「誰が、どんな問題を、なぜ抱えているのか?」です。
顧客はしばしば自分の病名を知らないまま、症状だけを語ります。顧客が抱える問題を正しく定義できなければ、どれほど華やかな技術とデザインで武装しても、虚空に向かって刀を振り回すのと同じです。多くの創業者は顧客インタビューの後、こう言います。「うちの製品はいいのに…なぜ使ってくれないんでしょう?」理由は簡単です。顧客が本当に求める「解決策」ではなく、自分がつくりたい「機能」を提供したからです。
顧客のWantと市場のNeedを区別すべき理由
顧客の問題定義が難しい最大の理由は、「欲求(Want)」と「必要(Need)」を混同してしまうからです。この2つは似ているように見えますが、本質はまったく異なります。
欲求(Want)は、顧客が直接表現する欲望や願いです。「UIがもっときれいだったらいいのに」「通知音がもっと選べたらいいな」といったものです。目に見えやすく、インタビューで真っ先に出てきます。
必要(Need)は、市場に実際に存在する根本的な問題です。顧客自身が認識していないことも少なくありません。「運動を継続するのが難しい」「自分のキャリアに合った情報を探すのに時間がかかりすぎる」といったものです。
私たちの目標は、Wantという殻をむいて、Needという中身を見つけ出すことです。
Wantは製品をより魅力的にしますが、Needは製品が存在すべき理由そのものです。顧客が「画面構成がいまいちです(Want)」と言う場合、その裏には「欲しい機能がすぐに見つからず、業務の流れが途切れる(Need)」という本当の問題が隠れています。
心理学で見る顧客の心:システム1とシステム2
顧客はなぜ、自分の本当の問題をはっきり話してくれないのでしょうか?ノーベル経済学賞を受賞した初の心理学者、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)のシステム1・2理論は、人間の思考様式を2つのシステムで説明します。

システム1:直感的思考
速く、感情的で、ほとんど労力を必要としない自動的な反応です。顧客はほとんどの場合、システム1で話します。「このボタンのデザイン、ダサいです」「なんだかもどかしいです」「なんとなくいまいちです」といった直感的な欲求(Want)は、すべてここから生まれます。
システム2:理性的思考
遅く、論理的で、多くの労力を必要とする分析的な思考です。顧客が抱える根本的な必要(Need)は、このシステム2で分析して初めて明らかになります。「遅くてもどかしい」というシステム1の不満の裏には、「特定の作業に時間がかかり、次の業務に支障が出る」というシステム2の具体的な問題が隠れています。
事業開発者(BD)の役割は、翻訳者に似ています。顧客の感情的で直感的なシステム1の言語(Want)を、論理的で分析的なシステム2の言語(Need)に翻訳し、製品の存在理由を見つけ出さなければなりません。クライアントとの対話でも同じです。
問題はアンケートではなく、顧客の「暮らし」の中にあります
多くのチームが、顧客を理解するためにアンケートを配ります。「このような機能があったら使いますか?」しかし、こうした質問では、私たちが知らない顧客の問題を知ることはできません。私たちが正解だと思っていることを確認するだけです。
顧客は、私たちが知らない彼らの問題を説明してはくれません。だからこそ、顧客の問題を定義するにはアンケートではなくインタビューが必要なのです。
300人へのアンケートで顧客の問題を定義したというスタートアップの代表に、シリコンバレーのあるVCはこう言いました。「100人の顧客にも会わずに、1,000万ドルの会社をつくろうというのですか?」
インタビューは正解を求めるプロセスではなく、理解を求めるプロセスです。「何が不便ですか?」と聞く代わりに、「1日をどのように過ごしていますか?」「そういうときはどんな選択をしますか?」のように、彼らの暮らしと文脈に耳を傾けなければなりません。
Airbnbはいかにして「ベッド」ではなく「体験」を売るようになったのか
初期のAirbnbは「安い宿」を提供するサービスでした。しかし事業は停滞しました。創業者たちはデータを見る代わりに、ニューヨークへ飛んで自らユーザーに会いました。そこで彼らは驚くべき話を耳にします。
「ただ寝る場所を探していたわけじゃないんです。地元の人のように暮らしてみたかったんです」
その瞬間、創業者たちは気づきました。顧客の本当のNeedは「安いベッド」ではなく、「その土地の本当の暮らしを体験したいという欲求」だったのです。この発見以降、Airbnbは単に宿を仲介するプラットフォームから、地元の人の「空間」と「ストーリー」を売る体験コミュニティへと生まれ変わり、爆発的に成長しました。問題はデータではなく、顧客の暮らしの中にあったのです。
顧客インタビューで本当の問題を引き出す
顧客のシステム1の言語(Want)からシステム2の問題(Need)を引き出すには、次の3ステップで対話を深く掘り下げる必要があります。
ステップ1. 文脈を聞く:「何を」ではなく「いつ、どこで」を尋ねる
問題は常に文脈とともに存在します。顧客に「何が不便だったか」を尋ねる前に、「どんな状況で」それを経験したのか、具体的なストーリーを聞くことに集中すべきです。
「その機能が不便だと感じたとき、具体的にどんな作業をしていましたか?」「1日のうち、いつ、どんな場所で主に私たちのサービスを使っていますか?」のように、顧客が自分の状況を自ら説明するように促す必要があります。
ステップ2. 感情を掘り下げる:「イライラ、もどかしさ、不安」の瞬間を捉える
顧客が口にする感情の言葉は、問題の強さを教えてくれる最も強力なシグナルです。「イライラ、もどかしさ、不安、失望」といったネガティブな感情が表れる瞬間こそ、私たちが掘り下げるべきポイントです。
「その状況でどんな気持ちになりましたか?」「『ああ、これはちょっともどかしい』と感じた瞬間があったとしたら、それはどんなときでしたか?」のように、感情を直接尋ねて問題の核心に迫ります。
ステップ3. 代替手段とコストを確かめる:「自力で解決しようとしたか」を確認する
もし顧客がその問題を解決するために、自らお金や時間をかけて別の方法を探したことがあるなら、その問題は「お金を払う意思のある」本当の問題である可能性が非常に高いといえます。
「その問題を解決するために、ほかの方法やサービスを使ってみたことはありますか?」「その問題が解決されなかったことで、実際にあきらめたり損をしたりした経験はありますか?」と尋ね、問題の切実さを測ります。
顧客の機能リクエストは正解ではなく、手がかりです。偉大な製品は、顧客の言葉をそのままなぞることから生まれるのではなく、顧客自身さえ気づいていなかった本当の問題を診断し、解決することから生まれます。
brunch作家のjaha Kim氏の同意のもと、[Startup Codex 22]のコンテンツを活用して制作しました。
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